不動産を購入するには、不動産会社を介するだけでなく、裁判所が主催する競売へ参加し、競売物件を購入する方法もあります。しかし、競売物件という単語は知っていても、そもそもどのような特徴を持つ物件なのかわからないという方もいます。
そこで本記事では、競売物件の基礎知識、購入するメリット・デメリットなどを解説します。競売物件に関するアンケート調査も実施しているので、競売物件について基礎から知りたい方はぜひ参考にしてください。
1. 【アンケート調査】競売物件とは何か知っている?
本記事では「競売物件」について、認知度や理解度を調査するため、不動産の購入を検討中の人にアンケートを実施しました。
約9割の人が競売物件について聞いたことがある一方、実際に競売に参加したことがある人は4%と、認知度と参加経験者には大きな差があります。
多くの人が競売物件に興味を持っているものの、その仕組みやリスク、購入方法などの詳細を知らないことが推察されます。
2. 競売物件の基礎知識
競売(けいばい、きょうばい)物件とは、債権者の申し立てにより差し押さえられた不動産が、裁判所経由で売りに出されたものです。ここでは、競売物件の基本情報を解説します。
2-1.競売物件とは?簡単に解説
競売物件は債務者の所有していた不動産です。債務の返済が滞った場合に債権者が裁判所に申し立てると、裁判所は債務者の不動産を差し押さえて競売にかけます。売却代金は債権者に配当され、返済に充てられる仕組みです。
住宅ローンの返済ができなかった際に、融資した金融機関の申し立てにより住宅ローンの対象となった不動産が競売にかけられるのは、競売物件の代表的な例と言えます。
一般的な不動産売却と大きく異なる点としては、売買される不動産が裁判所に差し押さえられており、売主(不動産の売却者)がいないことが挙げられます。
裁判所は所有権移転登記や、購入者(買受人)に関係のない登記の抹消はおこないますが、引き渡し義務や契約不適合責任など売主が果たす役目は請け負いません。
そのため、一般の中古住宅の売却・購入経験がある人でも、競売となると戸惑ってしまうケースが多々あります。競売物件の購入を検討する場合は、事前に情報収集をしっかり進めておくことが重要です。
なお、裁判所がおこなう競売には、過去にルール違反をした、反社会勢力に属していたなどの経歴がなければ基本的に誰でも参加できます。法人・個人も問いません。
参加するには、裁判所が提示する売却基準価額(裁判所が決定した売却の基準価格)に対し、2割控除した買受可能価額(購入可能な最低ラインの金額)以上の価格で入札(=購入希望を出す)します。入札時には保証金が必要で、落札時に残代金を支払います。
2-2.競売物件になる物件はどのようなもの?
基本的に、どのような不動産も競売物件の対象です。
競売はあくまで物件の売却方法の1つであり、法律上、売却に支障がなければ競売の対象となります。一戸建てやマンション、宅地など、住宅ローンで購入できる居住用物件以外に、次のような物件も対象です。
① 一般の人にとってほとんど利用価値のない土地や建物
② 建物が建てられない土地
③ 買受け後直ちに取壊して敷地を明け渡さなければならない建物
④ 買受け後も他人に長期間貸し続けなければならず,賃料を受ける利益しかない土地 や建物
⑤ 金融機関の融資を受けられない土地や建物 など
中にはマンション一棟など、利益につながる可能性のある物件も含まれます。しかし、実際に購入して損がないかどうかは、事前に与えられた情報の中から自己判断しなくてはなりません。
また、通常の物件を売買する際には買主に与えられる権利が、競売物件ではいくつか制限される点にも注意が必要です。制限される点については「競売物件のデメリット」にて詳しく解説します。
2-3.公売物件との違い
公売物件は税務署や国税局が税金の滞納を理由に差し押さえたのち、一般市民に向けて売却する物件です。
競売物件とは違いがいくつかあるため、表で見てみましょう。
項目 | 競売物件 | 公売物件 |
---|---|---|
売却の理由 | 住宅ローンなど債務の滞納 | 税金の滞納 |
販売をおこなう機関 | 裁判所 | 税務署・国税局 |
債権者 | 民間の金融機関 | 税務署・国税局 |
購入する場所 | 裁判所 | 税務署・国税局、役所など公売会場 |
立ち退き | 強制退去が可能 | 当事者同士で交渉 引渡命令をすぐに出すことはできない |
競売物件は裁判所が担当しますが、公売物件は税務署や国税局が主導し売却をおこないます。また、競売物件では強制退去させることも可能ですが、公売物件の場合は立ち退き交渉を買主自らおこなわなければなりません。
2-4.任意売却との違い
任意売却とは、金融機関など債権者の同意を得て、一般的な不動産会社の仲介で物件を手放す方法です。
競売との大きな違いは、債務返済が困難になった債務者が自らの意思で、不動産を売却して返済を目指したいと債権者へ申し出る点にあります。
手続きやルールの違いを簡単に表にまとめました。
項目 | 競売 | 任意売却 |
---|---|---|
売却を決める人 | 債権者(金融機関) | 物件の所有者 |
売却をおこなう機関 | 裁判所 | 一般の不動産会社 |
情報の公開 | 自宅住所や外観、氏名などが公開される | 売買に必要な情報が公開されるがプライバシーを守りやすい |
売却価格 | 相場より3~5割安い | 相場と同じ程度 |
売却後の残債の支払い | 一括払いまたは分割 | 分割払いが交渉できる |
明け渡し時 | 強制退去あり | 明け渡しの時期を交渉できる |
債務者側の視点で見ると、任意売却のほうが返済計画を柔軟に立てられます。たとえば不動産を売却してなお完済できず残債がある場合、競売による売却では分割払いの交渉は難しいことが多いです。最悪は自己破産の可能性もあります。しかし、任意売却であれば債権者との関係を良好に保ちやすく、分割払いの交渉ができる余地が残ります。
一方、購入者側としても、任意売却は物件の元の所有者が売却に前向き、かつ、不動産会社が仲介役となるため、トラブルなく手続きを進めやすくなるでしょう。
3. 競売物件を購入するメリット
競売物件の購入には、市場価格より安い、一般流通しないような物件も購入できるといったメリットがあります。詳しく見ていきましょう。
3-1.安く購入できる
多くの競売物件は、地域差はあるものの、一般物件の相場よりも安く購入できます。
競売は通常の不動産売買と異なる点も多いため、あらかじめ価格が調整されています。購入の目安とする売却基準価額は、市場の相場よりも3~5割ほど安く設定されていることが多いです。
さらに、実際の入札時は売却基準価額に対し2割低い、買受可能価額から入札できます。
競売物件の中には、物件自体は普通の中古物件と遜色ないケースも含まれます。予算を抑えて購入し、内装や設備をリフォームでより良いものにすれば、中古物件でも快適な暮らしを実現できるでしょう。
なお、競売物件が一般物件の相場に対し価格が安くなる理由については、本記事のQ&Aでも詳しく解説するため、参考にしてください。
3-2.多様な物件が見つかる
競売は一般住宅や土地だけでなく、多種多様な不動産を購入するチャンスです。店舗や駐車場、マンション一棟などの収益化を目指しやすい物件や、不動産会社があまり取り扱わない離島、僻地の山林など、珍しい立地に出会う可能性もあります。
通常の不動産売買では出会いにくい物件を探している、できるだけ安く特殊な物件を手に入れたいという場合には、メリットとなるでしょう。
4. 競売物件を購入するデメリット
競売物件の価格が安い理由として、通常の不動産売買とは異なるいくつかのデメリットが存在することが挙げられます。それぞれ解説します。
4-1.引き渡し義務がない
住宅ローンを滞納して競売にかけられた物件の場合、前の居住者が退去せずに住み続けているケースがあります。その場合、購入者が自ら立ち退き交渉をしなくてはなりません。
競売は基本的に債務者の意思に基づかない売買であることから、債務者には引き渡し義務をはじめとする売主の責任が求められません。裁判所が関与するのは競売の手続きや物件の登記名義の書き換えまでであり、物件の引き渡しについては対応の範囲外です。
経済的理由などから前の所有者が退去していない場合は、明け渡しを命じる「引渡命令」を出すよう、購入者自身が裁判所に対して申し立てをおこないます。命令後も退去が進まない場合は明け渡しの「強制執行」へと踏み切れますが、費用は裁判所へ別途支払いが必要です。
また、残された家財道具があっても、勝手に処分はできません。競売で落札できるのは、対象となる物件のみです。内部の家財は勝手に処分できないため、相続人の有無などを確かめ、家財整理を進める必要があります。
4-2.内覧ができない
競売物件の内覧は民法執行法64条の2第1項より認められていますが、入札者側の内覧は実質不可能です。入札者が内覧をするためには、金融機関など差押債権者が裁判所に申し立てて、裁判所が許可を出す必要があります。しかし、債権を回収できるかどうかの状況下であえて費用をかけて裁判所に申し立てをおこなうケースは少ないといえます。
また、競売物件の場合、裁判所はあくまで物件を差し押さえているだけであり、物件の所有権は債務者にあります。競売がおこなわれている状況下では、債務者が内覧希望に対して好意的に対応することを期待できないのも、内覧が実現不可能な理由です。
内覧ができない以上、物件の状況確認の情報源としては、「3点セット」と呼ばれる裁判所が作成した次の資料が頼りとなります。
書類名 | 内容 |
---|---|
現況調査報告書 | 執行官が実際に競売物件を見たうえで作成する。不動産の写真などが添付されている書類 |
評価書 | 執行裁判所が専任した評価人(不動産鑑定士)が提出した物件の価格評価や、算出理由などが分かる書類 |
物件明細書 | 買受人が引き受けることになる権利(賃借権や地上権など)を記載した書類 |
いずれも裁判所で閲覧できるほか、民事執行センターが提供するBIT(不動産競売物件情報サイト)から情報を検索・閲覧できます。
ただしこれらの書類は、古い情報が記載されている可能性もあります。可能であれば現地で物件の外観や立地を確認してから入札に臨むようにしましょう。
4-3.契約不適合責任がない
競売物件は契約不適合責任が限定されるため、購入後に不具合が見つかっても契約の取り消しや損害賠償の請求ができるケースが限られます。
契約不適合責任とは、契約書に記載がなかった欠陥や不具合が不動産の購入後に見つかった際、売主が買主に対し、修繕費の負担や賠償をおこなう責任のことです。たとえば次のような不具合が該当します。
• 雨漏り
• 白アリによる建物の腐食
• 給排水設備の水漏れ
• 騒音や異臭がある
• 過去に自殺などがあった(心理的瑕疵)
しかし、競売物件では民法568条4項に基づき、上記のような瑕疵は原則として一切補償されません。
(競売における担保責任等)
第五百六十八条 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は、第五百四十一条及び第五百四十二条の規定並びに第五百六十三条(第五百六十五条において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
3 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
4 前三項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない。
一方、民法568条4項で定める「競売の目的物の種類又は品質に関する不適合」以外の不適合であれば、契約不適合責任の対象となります。たとえば物の瑕疵ではなく「借地権付きの建物と確認して落札したが、実際には借地権がなかった」というような権利の瑕疵が発生した際には、契約の解除や代金の返還請求ができる場合もあります。
なお、競売の代金を納付する前であれば、不動産の滅失または売買金額が変更されるほどの損傷がある場合、裁判所に申し出ることで契約解除(落札取り消し)が可能です。
5. 競売物件に関するよくある質問
最後に、競売物件に関するQ&Aを紹介するので、参考にしてください。
5-1.住宅ローンは組める?
民事執行法82条2項の策定により、金融機関の審査に通過できれば住宅ローンを組んで競売物件の購入が可能となりました。
競売物件の代金を支払ってから、所有権移転登記がなされるまでには一定の時間が必要です。従来の制度上は住宅ローンを組みたくても「その物件を担保にできない期間」が発生するために、住宅ローンが組めませんでした。
しかし民事執行法82条2項により、裁判所に申し出をおこなうことで、所有権移転登記と同時に抵当権設定登記がおこなえるようになったのです。
ただし、金融機関によっては住宅ローンの審査が通らないことも多々あります。内覧できず、契約不適合責任がないため購入後の不具合のリスクがある、といった競売物件のデメリットが原因です。
また、入札したとしても、確実に落札できるかどうかは、改札日までわかりません。落札できなかった場合は住宅ローンを組めないため、金融機関とは事前の相談が重要となります。
競売物件の購入時に住宅ローンの利用を目指すのであれば、早い段階から金融機関や競売物件に詳しい専門家に相談し、住宅ローンを組めるかどうか相談しておくと安心です。
5-2.相場より安く家が買える?
物件の状況や質にもよりますが、競売物件は一般の物件と比べると3割から5割ほど安く購入できると言われます。次のような通常の不動産売買にはないリスクがあるからです。
- 購入希望者(買受人)は内覧が不可能なことが多い
- 前の所有者が物件を占拠していることがある
- 引き渡し義務や契約不適合責任の義務がない
- 裁判所の資料は最新ではなく、誤りがあっても代金の支払い後は返金されない
- 物件次第では住宅ローンが使えない
- 売却残代金を1ヵ月以内に一括で支払わなくてはならない
- リフォームなど物件の修繕はされない
これらの事情を鑑みたうえで、裁判所が市場価格から見て3割から5割ほど安い入札基準価額(売却基準価額)を設定するために、相場より安く家が買える可能性があります。
また、実際に入札する際は売却基準価額に対し2割を控除した価格(買受可能価額)での入札が認められています。たとえば売却基準価額が1,000万円なら、2割を控除した800万円で入札可能です。
5-3.競売物件をより安く購入するためには?
特別売却の物件を選ぶことで、同じような立地や面積の競売物件よりも低価格に購入できる可能性があります。
特別売却とは、買受可能価額以上の価格であれば、もっとも早く最低入札価格を入札した人が購入できる仕組みです。つまり、早いもの勝ちとなります。競売の期間入札を経ても入札者が現れず、売却基準価額を再度見なおすなど段階を踏んだうえでおこなわれます。
通常の競売では最高額を入札した人が落札者となるオークション形式でおこなわれるため、必ずしも安い価格で物件が購入できるとは限りません。しかし、特別売却であれば最低入札価格での購入のチャンスがあります。
特別売却の期間や日程は、不動産競売物件情報サイトのBITを通じて物件ごと検索できます。必ず特別売却がおこなわれるとは限りませんが、より安く買いたいときには確認してみましょう。
5-4.競売物件は事故物件が多い?
事故物件が多いとは言いきれませんが、中には含まれます。裁判所が提示する次の「3点セット」をよく確認し、入札前に事故物件かどうかを調べることが大切です。
• 物件明細書
• 評価書
• 現況報告書
ただし、物件調査から競売開始までは一般的に半年以上かかります。そのため、3点セットの情報と物件のいまの状況が必ずしも同じとは言えません。
また、通常の不動産売買と異なり内覧ができないため、競売が開始されてから事件や事故などが発生しても、購入者が情報を詳しく入手できないケースも多いです。
物件の元の持ち主である債務者から積極的な協力を得られなかったり、調査に費用を十分にかけられなかったりすると、そもそも調査が不十分なこともあります。
もし残金を払う前に物件の状況が変わっていると判明したら、早い段階で裁判所に申し出ることが重要です。物件の状態によっては対応する法律が異なるなど複雑になるため、不動産売買に詳しい弁護士への相談も検討しましょう。
6. まとめ
競売物件とは、債権者の申し立てにより、裁判所を通じてオークション形式で売却される物件のことです。一般的な不動産売買と比べ割安で購入できる可能性があり、市場には出回らない物件を見つけるチャンスにもなります。
しかし通常の不動産売買のように内覧ができない、情報が限られる、契約不適合責任が問えないなど、購入後にトラブルが生じる可能性もゼロではありません。
競売物件の購入を検討する際には、不安があれば専門家への相談や、他の購入方法の検討もすすめましょう。
※本記事は2024年2月24日時点の情報をもとに記載しています。法令等の改正により記載内容について変更となる場合がございますので、予めご了承ください。
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