2.売却するときの税金
7.2つの住宅譲渡損失の繰越控除の特例
5年を超えて保有する居住用財産を譲渡して譲渡損が生じた場合に、この譲渡損をその年の他の所得と合算する損益通算を行うことができ、損益通算をしても赤字となった金額については翌年以降3年間に繰り越して各年の所得から控除することができる特例制度です。
この特例制度には、次の2つがあります。
- ・居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例
居住用財産を売却し、新たに購入した(買い換えた)場合に適用
- ・特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例
居住用財産を売却しただけ(買い換えを伴わない)の場合に適用
【1】居住用財産を買い換えた場合
居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例の適用を受けるためには、次のA、Bの要件を満たして居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例の適用を受けることが必要です。
その損益通算の結果、赤字が発生した場合には、次のCの要件を満たすことで、その赤字のうち居住用財産の譲渡損失に相当する部分の金額について、繰越控除の特例の適用を受けることができます。
<A:売却する居住用財産の要件>
- イ) 居住の用に供していること
- ロ) 譲渡の年の1月1日における居住用財産の所有期間が5年を超えること
- ハ) 1998年1月1日から2023年12月31日までの間に譲渡すること
<B:買い換える居住用財産の要件>
- イ) 譲渡の年の前年1月1日からその譲渡の年の翌年12月31日までの間に取得すること
- ロ) 取得した日から取得の日の属する年の翌年12月31日までの間に居住の用に供すること又は供する見込みであること
- ハ) 居住用部分の床面積が50m2以上であること
- ニ) 損益通算の適用を受ける年の12月31日において、買い換え資産のために金融機関等から借り入れた住宅ローンの残高(償却期間が10年以上)があること
<C:繰越控除の特例の要件>
- イ) 繰越控除の特例の適用を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であること
- ロ) 譲渡した居住用財産のうちに面積が500m2を超える部分に相当する譲渡損失の金額は繰越控除の特例の対象から除かれる
<繰越控除の特例のケーススタディ>
■前提条件
(1)会社員Aの給与所得 |
- ①給与収入:800万円
- ②給与所得控除後の金額:610万円
- ③所得控除後の金額:500万円
※上記金額は2022年以降も同様とする。
|
(2)会社員Aの居住用財産 |
- ①2013年5月に7,000万円で居住用マンションを取得
- ②2021年4月に居住用マンションを4,000万円で譲渡し
5,000万円で新たな居住用マンションを取得
- ③2021年12月31日時点における住宅ローン残高は2,000万円
|
(3)給与所得に係る所得税額 |
500万円×20%-42万7,500円=57万2,500円 |
(4)譲渡損失の金額 |
譲渡価格4,000万円-取得価格7,000万円=3,000万円 ※取得後に生じる減価償却費や譲渡の際に生じる仲介手数料などの諸費用は考慮しない。 |
■2021年の所得税額計算
(1)通算所得の計算 |
- ①損益通算前の所得 :610万円
- ②譲渡損失の金額充当:610万円
- ③通算後の所得 :0円(①-②)
|
(2)還付額の計算 |
- ①通算後の所得税額:0円
- ②所得税額 :57万2,500円
- ③還付額 :57万2,500円
|
(3)繰越譲渡損失 |
- ①譲渡損失額 :3,000万円
- ②当年使用分 :610万円
- ③2021年時点繰越譲渡損失額:2,390万円
|
■2022年以降の所得税額計算
(1)通算所得の計算 |
- ①損益通算前の所得 :610万円
- ②譲渡損失の金額充当:610万円
- ③通算後の所得 :0円(①-②)
|
(2)還付額の計算 |
- ①通算後の所得税額:0円
- ②所得税額 :57万2,500円
- ③還付額 :57万2,500円
|
(3)繰越譲渡損失 |
- ①前期からの繰越譲渡損失額:2,390万円
- ②当年使用分 :610万円
- ③2022年時点繰越譲渡損失額:1,780万円
※2023年以降も同様に計算する
|
【2】居住用財産を売却した(買いかえなし)場合
特定居住用財産の譲渡損失の繰越控除の特例の適用を受けるためには、次のAの要件を満たして特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例の適用を受けることが必要です。
その損益通算の結果、赤字が発生した場合には、次のBの要件を満たすことで、その赤字のうち特定居住用財産の譲渡損失に相当する部分の金額について、繰越控除の特例の適用を受けることができます。
<A:売却する居住用財産の要件>
- イ) 居住の用に供していること
- ロ) 譲渡の年の1月1日における居住用財産の所有期間が5年を超えること
- ハ) 2004年1月1日から2021年12月31日までの間に譲渡すること
<B:繰越控除の特例の要件>
- イ) 繰越控除の特例の適用を受ける年の合計所得金額が3,000万円以下であること
- ロ) 居住用財産の売買契約を締結した日の前日におけるその居住用財産に係る住宅ローンの残高が譲渡価格を超えていること
<繰越控除の特例のケーススタディ>
■前提条件
(1)会社員Aの給与所得 |
- ①給与収入 :800万円
- ②給与所得控除後の金額:610万円
- ③所得控除後の金額 :500万円
※上記金額は2022年以降も同様とする。
|
(2)会社員Aの居住用財産 |
- ①2013年5月に7,000万円で居住用マンションを取得
- ②2021年4月に居住用マンションを4,000万円で譲渡し 5,000万円で新たな居住用マンションを取得
- ③2021年3月(売買契約締結日の前日)における住宅ローン残高は5,220万円
|
(3)給与所得に係る所得税額 |
500万円×20%-42万7,500円=57万2,500円 |
(4)譲渡損失の金額 |
以下①と②を比較し低い金額が譲渡損失となる
- ①譲渡価格4,000万円-取得価格7,000万円=3,000万円
- ②譲渡価格4,000万円-住宅ローン残高5,220万円=1,220万円∴譲渡損失の金額は1,220万円
※取得後に生じる減価償却費や譲渡の際に生じる仲介手数料などの諸費用は考慮しない。
|
■2021年の所得税額計算
(1)通算所得の計算 |
- ①損益通算前の所得 :610万円
- ②譲渡損失の金額充当:610万円
- ③通算後の所得 :0円(①-②)
|
(2)還付額の計算 |
- ①通算後の所得税額:0円
- ②所得税額 :57万2,500円
- ③還付額 :57万2,500円
|
(3)繰越譲渡損失 |
- ①譲渡損失額 :1,220万円
- ②当年使用分 :610万円
- ③2021年時点繰越譲渡損失額:610万円
|
■2022年以降の所得税額計算
(1)通算所得の計算 |
- ①損益通算前の所得 :610万円
- ②譲渡損失の金額充当:610万円
- ③通算後の所得 :0円(①-②)
|
(2)還付額の計算 |
- ①通算後の所得税額:0円
- ②所得税額 :57万2,500円
- ③還付額 :57万2,500円
|
(3)繰越譲渡損失 |
- ①前期からの繰越譲渡損失額:610万円
- ②当年使用分 :610万円
- ③2022年時点繰越譲渡損失額:0円
|
売却・住みかえをお考えなら、まずは無料査定で価格をチェック!